ブラックレイク地区にて

「疫病で多くの人々が苦しんでいるこの時勢に食料を買占め独占する悪の魔法使い。彼の横暴を許してはいけません!」

 声のする方を向くと広場に数人の聴衆が集まっているのが見える。そして、その輪の中心で一人の女性が声高に演説していた。

 あれが検問所の隊長が言っていたフォルモーザか・・・。

 貧困街とブラックレイク門の間にある検問所。ここでは悪人はもちろん、一般人や疫病患者まで排斥している。
 そのやりすぎともいえる徹底した検問により、ネヴァーウインターの街で唯一ブラックレイク地区に済む貴族たちだけは疫病の恐怖から免れている。もっとも、それゆえに他の地区の住人からは酷い反感を買っているのだが。

 そんなブラックレイク地区でもある問題が発生している。
 それは二人の貴族による食料を巡る争い。
 検問所の隊長に聞いた話しでは、この地区に住むメルダネンという魔法使いの貴族が食料を貯めこんでおり、フォルモーザという別の貴族がそのことに対して猛反発し、両者は対立しているのだという。
 もっとも、メルダネンが食料を貯めこんでいるというのはフォルモーザの一方的な主張らしいが。

 本当か嘘かは当人に聞いてみるのが一番手っ取り早い。
 演説が一段落したのを見計らってフォルモーザに話しかけてみた。

 彼女の話は一見的を得ているかのように聞こえるが、どうも一方的にメルダネンを目の仇にしている節がある。魔法使いに対して偏見を持っているというか・・・。
 それを証明するかのように、彼女からの依頼された仕事には「穀物庫の鍵の入手」の他にもうひとつ「メルダネンの暗殺」が付け加えられていた。
 報酬は、鍵を入手に成功した場合は魔法の首飾りを、さらにメルダネンを暗殺した際に証拠となる品(メルダネンの銀歯)を持ってくれば500ゴールド出すとのこと。
 穀物庫の鍵を盗ってきたところで、彼女が本当に食料を貧しい者達に分け与えるかどうか眉唾物だが、それは俺にとってはあまり関係のないこと。暗殺に関してはメルダネンがどんな人物か実際に会ってみてから判断するとして、とりあえず彼女の依頼を受けることにした。

 俺との話を終え、再び演説を始めるフォルモーザ。
 彼女は政治家に向いているのかもしれないな、なんて思いながら広場を後にした俺は、ブラックレイク地区での仕事を開始するのであった。

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