ペニンシュラ刑務所 地下2階にて

 ペニンシュラ刑務所 地下2階、通称『地獄穴』。
 看守長のアレイフィンが囚人達を解放したという噂は、紛れもない事実だったようだ。
 彼は今、囚人達の王として地獄穴に君臨している。

 いままでと違い、照明も少なく薄暗いこの階では床の所々に罠が仕掛けられ、こちらの進攻を妨害する。逃げ場を失った脱獄囚達も最後の悪あがきともいえる猛攻を仕掛けてきた。

 その中を狂戦士のように突き進む一組の男女がいた。罠が発動しようが囚人達に斬りつけられようがお構いなしに突き進む二人の姿は、囚人達の眼にはどのように映ったのだろうか。
 (まあ、はやい話がゴリ押し)

 やがて二人は、地獄穴の最深部にある看守長室へと辿りついた。

クルダン・フェンクト

「ここまでだ、アレイフィン!」

 扉を蹴破り、部屋の中へと突入する。
 部屋の中にはアレイフィン看守長の他に巨漢のハーフオークが待ち構えていた。

「クルダン、この邪魔者を片付けろ。さもなくば、次はおまえに取り憑いてやる」
「はい、ご主人さま。ここで彼ら、待ち伏せします」

 隣の部屋へと逃げていくアレイフィンを追いかけようとする私達の前に、クルダンと呼ばれたハーフオークが立ち塞がる。

「ご主人の命令、ここでお前ら、殺す!」

 長い柄の両端に両刃の斧が取り付けられたダブルアックスを軽々と振り回し、攻撃を仕掛けてくるクルダン。

「シャル、魔法で援護頼む!」
「OK、やってみる」

 とはいうものの、シャルウィンの使う精神魔法はことごとく抵抗され、まったく効果を発揮しないようだ。
 唸りをあげて迫ってくるダブルアックスをかいくぐり、覚えたばかりの新技「打ち倒し」でクルダンを仰向けに押し倒す。怪力を誇るハーフオークもさすがに倒れた状態からは攻撃出来ないようだ。

 やがて、

「うう… お前、戦い強いな。もう、降参だ」

 クルダンは武器を置き、降参の意を表した。

「看守長、捜してるんだろ?あいつのほんとの姿を知りたいか?」
「本当の姿? 疫病で狂っただけじゃないのか?」
「違う。看守長、人間のぬけがらだ。体の中で、何かに脳食われてる。それは、看守長を操ってる。あいつは…別人だ」
「その”何か”を見たことはあるのか?」
「ああ。犬みたいに小さく、腐ったコケみたいな匂いがする。頭なく、大きな脳むきだしだ。だから、脳食べるの好きなんだろう」

 脳むきだしの生き物、か。
 逃げ出したウォーターディープの生物の一体「インテレクト・ディヴァウラー」に間違いないだろう。
 人の精神を操るヤツが相手となると少々厄介だな。

「それで看守長はどこに逃げた?」
「奥のねぐらだ。あいつを守って、養っている。他の看守達もいっしょだ。ただ、看守ゾンビに変えられてる」
「ゾンビに? 何か彼らを助ける方法を知っていないか?」
「ああ… たぶん。看守たち全員と話して、意識戻させろ。その生き物、次にとりつく相手いなくなる。あいつ、すばやく次の人間にとりつくぞ」

 少々厄介だな。
 最悪、アレイフィンを含め看守全員を殺さなくてはいけないとは・・・。説得がうまくいくことを祈るしかない。

 さてと、情報は充分に聞き出せた。あとは、このハーフオークの処遇をどうするか、か。
 逃がしてやってもいいが、仮にも看守長が来るまでは地獄穴の王だった極悪人。後の禍根となるやもしれん。
 ここは・・・

「それだけ分かればもういい・・・。お前はここで死ね!」

 ある程度予測していたのだろう。クルダンは武器を拾い上げると、

「はん、降伏はやめだ。オレ、死ぬときは、地獄穴の王として死ぬ。さあこい! 」

 と最後の反撃を仕掛けてくる。

 渾身の力を込めて振り下ろした剣は、元地獄穴の王クルダン・フェンクトの持つダブルアックスの柄ごと彼の体を斬り裂いた。

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